「これって、みんなと同じ『体質』だよね?」——そう自分に言い聞かせながら、実はずっと苦しかった。そんな経験はありませんか。周りより明らかに汗の量が多くて、でも病院に行くほどのことなのか分からず、「汗っかきなだけ」「体質だから仕方ない」と自分を納得させてきた人は、きっと少なくないはずです。私自身も、長い間そうやって生きてきた一人です。今日は、私が「体質」だと思い込んでいたものが実は「原発性局所多汗症」という病気だったと気づくまでの話と、この病気について薬剤師として知っておいてほしいことをお伝えします。
小学生の頃、「自分は他の子と違う」と気づいた日
最初に違和感を持ったのは、小学校高学年の頃でした。当時サッカーをやっていたのですが、練習や試合のあとのユニフォームの汗染みが、明らかに他の子たちと違ったのです。脇の下や背中がぐっしょりと濃く広がっていて、「なんで自分だけこんなに汗をかくんだろう」と、子どもながらに悩み始めました。
母は看護師でしたが、当時は「多汗症」という病気そのものがあまり知られておらず、母からも「それは体質だから仕方がないよ」と言われました。医療に携わる母の言葉だったこともあり、私は「そっか、体質なんだ……」とすんなり受け止めて、それ以上深く考えることをやめてしまいました。今思えば、この病気の認知度がそれだけ低かった、ということなんだと思います。
脇や足の汗から、頭や顔の「精神性発汗」へ
最初の頃は、脇や足の裏の汗が中心でした。ただ、悩み始めたことがかえって影響してしまったのか、次第に頭部や顔面からも大量に汗をかくようになっていきました。緊張したり、人の視線を意識したりすると、頭から汗が噴き出してくる。いわゆる「精神性発汗」と呼ばれるものだったのだと、今なら分かります。
そうなると、人前で発表することが怖くてたまらなくなりました。授業の発表、部活の場面、後には仕事の場でも、「また汗が噴き出したらどうしよう」という不安が先に立つようになり、できるだけ人目を避けるように過ごすようになっていったのです。汗そのものよりも、「人にどう見られるか」という不安の方が、だんだん自分を苦しめる大きな存在になっていきました。
この「症状が悩みを呼び、悩みがさらに症状を強くする」という悪循環は、当事者にしか分かりにくい部分だと思います。周りからは「気にしすぎ」「そんなに汗かいてないよ」と言われることもありましたが、本人の中では確実に大きなストレスとして積み重なっていました。
「体質」ではなく「病気」だと気づいたのは、薬剤師になってから
この汗の悩みが、単なる体質ではなく「原発性局所多汗症」という診断名のつく病気だと知ったのは、薬剤師として社会人になり、働き始めてからのことでした。学生の頃には知る機会がなかった医学的な情報に触れるようになり、初めて「これは自分が我慢すべき体質ではなく、ちゃんと名前のついた症状だったんだ」と気づいたのです。
子どもの頃からずっと「仕方ない」と諦めてきたことに、実は診断基準があり、多くの人が同じように悩んでいるという事実を知ったとき、ほっとしたような、もっと早く知りたかったような、複雑な気持ちになったのを覚えています。
原発性局所多汗症とは?薬剤師の視点から解説します
ここからは、薬剤師としての知識も交えながら、「原発性局所多汗症」がどんな病気なのかを整理しておきたいと思います。私と同じように「これは体質なのかも」と悩んでいる方の、最初の一歩になれば嬉しいです。
診断の目安になる基準
日本皮膚科学会の診療ガイドラインでは、局所的に過剰な発汗が、明らかな原因がないまま6か月以上続いていて、さらに以下の項目のうち2つ以上に当てはまる場合を、多汗症の目安としています。
- 発症が25歳以下である
- 左右対称に汗をかく
- 睡眠中は汗が止まっている
- 週1回以上、多汗のエピソードがある
- 家族に同じような症状の人がいる
- それによって日常生活に支障が出ている
ただし、これらの項目に当てはまるかどうかだけで、ご自身で診断できるものではありません。あくまで医療機関を受診する際の目安の一つとして知っておいていただければと思います。
私の場合も、発症が小学生の頃と早く、緊張する場面で繰り返し汗をかき、それによって人前を避けるようになっていたことを考えると、複数の項目に当てはまっていたのだろうと思います。
実は珍しくない、多汗症の有病率
「自分だけこんなに汗をかくのはおかしいのでは」と感じている方も多いと思いますが、実際には決して珍しい症状ではありません。国内の疫学調査では、原発性局所多汗症の有病率は約10%とされ、部位別に見ると腋窩(脇)が5.9%、頭部・顔面が3.6%、手のひらが2.9%、足の裏が2.3%というデータが報告されています。日本人の10人に1人程度が、何らかの多汗症を抱えている計算になります。
また、手のひらの多汗症の場合、平均発症年齢は13.8歳というデータもあり、10代のうちに症状が始まる人が多いことが分かっています。私自身が小学校高学年から悩み始めたことも、決して特殊なケースではなかったのだと、今は理解しています。
それでも「診断」につながる人はごくわずか
ここで知っておいてほしいのが、有病率の高さに対して、実際に医療機関を受診している人の割合が非常に低いというデータです。原発性腋窩多汗症の患者さんのうち、受診経験があるのはわずか4.4%、治療を継続できているのはさらに少ない0.7%程度という報告もあります。
これだけ多くの人が悩んでいるにもかかわらず、なぜ受診につながらないのか。理由の一つは、私の母がそうだったように、「多汗症は病気であり、治療の対象になり得る」という認識自体が、まだ社会に広く浸透していないことにあると思います。「体質だから」「そういう人もいるよね」という言葉で片付けられてしまいやすく、当事者本人も、それを疑わずに受け入れてしまいやすいのです。
治療の効果や向き不向きには個人差があります。気になる症状がある方は、自己判断せず皮膚科などの医療機関にご相談ください。
なお、ここで紹介した原発性局所多汗症とは別に、甲状腺の病気や服薬中の薬などが原因で汗が増える「二次性(続発性)」というタイプもあります。この2つは発症時期や部位の出方、対処の方向性が異なるため、「多汗症」と「原発性局所多汗症」は違う?二次性との見分け方で違いを整理しました。あわせて読んでみてください。
「体質だから」で終わらせないために、できること
もし今、この記事を読みながら「これ、自分のことかもしれない」と感じている方がいたら、まず知っておいてほしいのは、それはあなたの気にしすぎでも、性格の問題でもないかもしれない、ということです。もちろん、汗の量には個人差があり、この記事の内容だけで「あなたは多汗症です」と決めつけることはできません。ただ、先ほどの診断基準に複数当てはまる、日常生活に支障が出るほど困っている、という場合は、一度「体質」という言葉で片付けずに、専門的な情報に触れてみる価値はあると思います。
皮膚科を受診することも一つの選択肢ですし、まずは信頼できる情報を集めることから始めるのでも構いません。私自身、子どもの頃にこうした情報に出会えていたら、もっと早く気持ちが軽くなっていたはずだと感じています。同じように悩んでいる方が、この記事をきっかけに「体質だから仕方ない」という思い込みを少しでも手放せたなら、とても嬉しく思います。
人前での汗の悩みとの付き合い方については、人前で汗が止まらない不安と緊張性発汗との付き合い方でも詳しくお話ししています。また、日常のちょっとした工夫としては汗対策に涼感の冷却グッズ、職場でも使えた体験談やビオレ冷タオルの効果は?多汗症の職場体験談も、あわせて読んでみてください。




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